In Law

「……ん」
 カーテンの隙間から差し込む朝の柔らかな光を感じ、スザクは穏やかな眠りからゆっくりと覚醒した。
 体温の馴染んだシーツが心地よく、目を閉じればまたすぐ夢の中に戻れるだろう。
 わずかな誘惑を感じるが、残念ながら今日は平日であり、学生であるスザクは当然、学校に行かなければならない。
 眠気を求める体を叱咤して、うっすらと開いた目をこする。
 明るくなった部屋を見まわせば、ひらひらと白いカーテンが気持ち良さそうに泳いでいた。
 わずかに開けられた窓から流れる清涼な空気に誘われて勢いよく布団から起き上がると、ドアの向こうからトントンと軽快なリズムが届く。
 ふわりと漂う優しい朝の香りに頬を緩ませ、同時に頭に浮かんだ人物が、スザクの頭から眠気を一瞬で掻き消した。
 …今日も、ルルーシュが先か。
 朝が苦手だと知っているから、彼が連日こうしてスザクのために空気を入れ替え、朝ごはんを作ってくれるのは少し心配でもあり、またとても嬉しいことだ。
 温かくてくすぐったい、家族の匂いのする朝。
 厳密に言えばスザクとルルーシュは本当の家族ではないのだが、共に暮らし始めてすぐ、そんな紙面上の関係は気にならなくなった。
 スザクのためにルルーシュがいて、ルルーシュのためにスザクがいる。
 そんな二人だけの家庭が、たまらなく心地いいのだ。
「おはよう、ルルーシュ」
 真っ白な炊き立てのご飯に、湯気をあげている味噌汁。脇にはほうれん草のゴマ和えと鮭の塩焼き、そしてスザクの大好きなだし巻き卵が並んでいる。
 外国育ちの彼は、いつの間にかスザクの好みを覚え、和食を作れるようになっていた。
 一度もこれが好きだと言ったことはないけれど、不思議とルルーシュはスザクの好みがわかるようなのだ。
「朝から何を笑っている?」
 エプロンを外しながら、ルルーシュは怪訝な表情でスザクの顔を覗く。
 かくんと首を曲げる姿が可愛くて、スザクはついまた頬を緩めてしまった。
「いや、毎日ルルーシュがご飯作ってくれてるから」
「だからなんだ。オレはお前の保護者なんだから、これくらい……」
「だから、嬉しくって」
 ガタンッとルルーシュが座ろうとしていた椅子をひっくりかえす。
「お、前が作ったほうが……美味しいと思う…が……」
 首まで真っ赤にしてそっぽを向くルルーシュは、こうしてスザクが言う言葉にいちいち照れてしまうのだ。
 家族なら当たり前だと思う感謝も、言葉も、ルルーシュはどこか慣れないところがある。
 それがどうしてなのか、スザクはまだ聞けないのだけれど。
「そう? 僕はルルーシュの味が好きだけど……」
「そ…そう、か」
 単なる好奇心でルルーシュの過去に触れようとするのはとても躊躇われて。
「そういえば昔、洗剤でご飯洗おうとしてたよね」
 あれには本当にびっくりしたと話題を変えれば、今度はむっと不機嫌な顔になる。
 くるくると変わるルルーシュの顔を見れるのが嬉しくて、無遠慮な疑問はすっとその影を潜めていくのだ。
「何度蒸し返す気だ。あの時はまだ……」
 少しからかえば、ルルーシュはこうして感情を露にして食い下がってくる。
 出会った頃は無表情で、無感情で、何を話しても何を聞いても反応がなく、突然家に入り込んできた異端者の態度にイライラしたものだった。
『今日からこいつもここに住むことになった』
 当たり前のように言うあの人の態度よりも、突然の侵入者に嫌悪を覚え、無愛想なその態度に反発した。理由のないもどかしさでいっぱいになり、彼が真っ青な顔をしていることにも気づけずに、何度も傷つけるような言葉を吐いた。
『すまない……』
 抱えた枕に涙を隠し、ひっそりと震える彼を見つけたとき、言い表せない気持ちに胸がしめつけられ、逃げるように部屋に戻った。それが誰に向けた言葉なのかはわからなかったが、能面のようだった男の素顔が見えた気がして、かんしゃくを起こしていた自分に嫌悪した。
「うん、知らなかっただけなんだよね」
 最初に二人を結び付けてくれた人はもういないけれど、それでもルルーシュはこの家に残り、スザクと共に暮らすことを選んでくれた。
 約束なんかない。
 もしルルーシュがある日突然スザクの前から姿を消しても、スザクには何も言う権利はない。
 けれどもう、この手を話すことができないと知っているから。
 あの人が導いてくれたこの場所を、この家族を、守りたい。
 だから。
「いってらっしゃい、スザク」
   行ってきます、義父さん。


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 義父ルルーシュとその息子スザクの話。
 ゆったり甘く、けれどシリアスな話にする予定です。
 個人的にギアスから感じた人間模様を多少なりとも生かしたいです。
 稚拙な文章ですが、よろしければお付き合いください。