「行ってきます、義父さん」
そう言ってやわらかく微笑んだスザクを見送り、ルルーシュはほっと息をつく。
慣れてはきたが、やはり朝早くに動くのは体がだるい。
いつもは意識しなくても浮かんでくる今日のスケジュールが、浮かんでは消えていく。今日の予定は何だったかと頭を揺さぶりながら、やわらかなソファの誘惑にふらふらと体が引き寄せられる。
出会ってから四年、二人きりの家族になってから二年。一日一日を苦痛だと思っていた昔とは違う暖かで安らかな日々は、優しい毛布のように感じることもあるが、時々ふと生ぬるい液体に浸かっているような不安を覚える。
寒くて寒くてしかたなかったあの日、繋いでいたもの全てを奪われ、己の無力に絶望した。自分の身すら自由にならないことが歯がゆく、切なくて。らしくもなく取り乱していたのを覚えている。
手に入れたかったものが、あと少しで手に入れられるはずだったものが、簡単に目の前から奪われていく恐怖。
守りたかったものが、大切にしたかったものが一瞬で手のひらから零れ落ちていく喪失感。
「…っく」
ぶるり、と寒くもないのに体が震える。
失ったものが大きければ大きいほど、忘れることなどできはしない。そして背負ったものが大きければ大きいほど、その喪失感も消えないままだ。
『無器用だな、おまえは……もっと上手く生きようと思えば生きられただろうに』
思い出すたびに動揺する自分をそう嘲笑した女は、正しい。
それでも、無力なものが泣き、強いものが笑う現実を受け入れられなかった。受け入れることなんてできなかった。
それを受け入れてしまえば、自分が失った大切なものたち命が、言葉のまま消えてしまいそうで。
そのものたちの死が事実であっても、その生きた証はたしかにあるのだ。
まだ、ここに残っているのに。
「忘れるなんて、できない……」
だから。
「すまない、スザク…」
だから、新しい家族を求めたのかもしれない。
差し伸べられた手を握り返したのは、そんな理由ではなかったはずだった。けれど、今ではそれが自分への言い訳なのかもしれないと思う。
寒さに震えていた体が温もりを求めるのは当然なのかもしれない。
寂しい時に声をかけられれば、つい顔を上げてしまうかもしれない。
温もりを与えられた後、離れることもできた。けれど、ルルーシュはそれをしなかったのだ。
代わりを求めていたわけじゃない。代わりにしようと思ったわけでもない。誰も代わりになどなれないし、そんなことを思うことすら間違っている。スザクはスザクで、他の誰にもなる必要なんてない。
そうわかっているのに、今スザクの側にいることが免罪符を求めているだけなのではと自問してしまう。それは何よりも、ルルーシュがこの場所を居心地のいい場所だと感じはじめているからだ。
大切なもの。失いたくないもの。
失って二度とつくらないと思ったものを、今何よりも求めている自身が情けない。
情けないけれど、それでも。
「あたたかい……」
並んだ食器。すべて食べてくれた食事。外でなびくシーツ。やわらかな光を入れるカーテン。いってきますと言ってくれる人。おかえりと言う自分。
そのすべてが愛しくて、嬉しいものだから。
「すまない、スザク……」
もう、この手を放せない。
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ルルーシュにとってのスザクと、スザクにとってのルルーシュは似ていて否なるもの。
考えのすれ違いは、やはりこの二人には欠かせないかと。
次からはもう少しテンポのいい感じになる予定<出来るのか……?
スザク学園verです。